うらそえ市民公開講座講演要旨

「浦添市在宅医療ネットワークを立ち上げて~なぜ今在宅医療なのか~」
仲間清太郎(浦西医院院長)

仲間清太郎

みなさんこんにちは。只今ご紹介いただきました浦西医院の仲間です。今日はこんな沢山お集まりいただきまして厚く御礼申し上げます。

ここでは、どちらかというと総論的な話になると思いますが、「在宅医療とは」、「在宅死」、「在宅療養支援診療所」、「在宅医療ネットワーク」、「在宅での看取り、特に末期がん患者」この5つについてお話ししたいと思います。

なぜ今在宅医療なのかということですが、厚労省の療養病床削減政策が背景にあるというのがまずあります。療養病床には、いわゆる「社会的入院」、そういう方が沢山入っていらっしゃるということで、療養病床を少し削減しようというのが背景にあります。厚労省の試算では約6割の方が実は退院できるのではないかと考えているようです。これにより、病院から在宅へ戻る中等度や重度の患者が増えています。2008年度で36万床の療養病床が削減・廃止され、老人保健施設や有料老人ホームへ転換されていきます。36万床といったら大変な数です。いっぺんに削減されるわけではないのですが、徐々に減らされていくという大変厳しい状況があります。そういった施設に入れなかった高齢者は自宅とか、老人ホーム、それから高齢者住宅、宅老所に移っていくということになります。それから、核家族化、少子高齢化社会、独居老人の増加です。一人で通院できない状況が背景にはございます。特に独居老人のことはあとでまた話が出ますけれども、浦添もかなり増えてきています。

さて、「在宅医療とは」ということですが、病院はどちらかというと入院が中心ですね。それから診療所は外来が中心です。在宅医療はそれに次ぐ「第3の医療」であるということです。それから医療を生活の場、家庭、地域で提供し、そこに積極的な価値観を認めようとするものです。その運営形態には、単独型、複数医院連携型、在宅専門型がございますが、今日のテーマの在宅医療ネットワークは複数医院連携型という形になります。

在宅医療で「往診」、「訪問診療」という言葉がよく使われますが、「往診」とは急性期の病気が発生した場合に診るというものです。急に熱が出たとか、胸やお腹が痛くなったりして体の具合が悪くなった時、一時的に医師の診察を自宅で受けるとそういうことが一般的に言われている「往診」ですね。それから「訪問診療」というのは、これは在宅ネットワークでよく出てきますが、在宅において療養を行っている患者さんで、定期的に計画性を持って医師が診察、治療を行うものです。通常2週間に1回くらいの診察という形になります。体が不自由で通院が出来ない方ですね、それからがんの末期、それから老化や認知症のある方、それから慢性の呼吸器疾患の方です。その他にもございますが、大体通院できないような方を医者が二週間に1回行って診るという形です。

往診と訪問診療数の年次推移を見ますと、往診数がだんだん減ってはきているのですが、それに比べて訪問診療は増えています。両方あわせると、どちらかというと横ばい傾向ですね。トータルとしてそんなに増えてはいない。

在宅医療費と国民医療費の推移については、最近でもほとんど変わっていないんですけれど、在宅医療費は大体国民医療費のおよそ2%ですね。現在の国民医療費が33兆円ですよね。それぞれ計算すると約7千億円の医療費というふうになります。在宅医療費がもっともっと増えれば、逆に国民医療費は減っていくのではないかと僕は個人的に考えています。

医療機関における死亡割合の年次推移ですが、実は昭和51年前後で、在宅で亡くなる方がどんどん減っています。それに比して医療機関で亡くなる方がどんどん増えて、約8割強ですね、在宅で亡くなる方は1割ちょっと、ということになっています。

全国と沖縄県でちょっと調べたのですが、平成18年でいうと、全国が大体年間108万4450人、その中で在宅死は約12.2%です。沖縄県は年間に9121名の方が亡くなるのですが、在宅死はやっぱり13%、大体全国平均ですね。

その内訳を見てみると、全国、沖縄県もやはり病院が圧倒的に多いですね、8割方。それと在宅はさっき言った通りです。診療所と老健施設と老人ホームがどちらかというと少ないですね。そういう内訳になっています。

がん患者の死亡場所を見てもやはり自宅は少ない。やっぱり施設が圧倒的に多いですね。年間大体30万人のがん死亡のうちで1万9千人が在宅死で、まだまだ少ない状況があります。

終末期における療養の場所ということで、これはご自身が痛みを伴い、治る見込みが無く、死期が迫っている場合、療養生活は最後までどこで送りたいですか?という質問に対して、自宅が6割ですね。だけど、「最後まで自宅で」は1割しかいない。なぜでしょうか。

やはり自宅で最後まで療養することが困難な理由としては、やっぱり家族の負担が大きいですね。それから症状とかの急変時の対応を心配していると、それが圧倒的に多いですね。

なぜ在宅死が減少傾向かというのをまとめてみると、やはりさっき言ったように介護する家族の負担が大きい。それから病状急変に対する不安ですね。対処法とか一人の医師で大丈夫か、場合によってはすぐ入院できるか。そして往診してくれる医師がいない。開業医にとって重症の在宅患者を数多く単独で診るのは、心身ともに大きな負担です。医師にとっても「やりたい」という気持ちがあってもやっぱり一人では厳しい状況であるということで、この辺を解決していかないと在宅医療は上手くいかないんじゃないかということが言えます。

「在宅医療を希望する患者さんを多く受け入れるためには」、ということですが、グループ診療システムの構築ですね。在宅医療を単独で行うのではなく、有志の医師が集まり、診・診連携、病・診連携を通じてグループ診療を行う。病院の患者さんにとって在宅医療の受け皿となる。開業医にとっても相互協力により医師の負担軽減が図れると、つまり急異変時、重症時、複数の医師が控えることで患者さん側、医療側共に安心。病院との緊密な連携で緊急時の受け入れにも対処できるということです。

在宅医療のネットワークの構築ということで、今日の話のポイントはここになると思いますが、まず中心に患者さんがいらっしゃいます。そして普段診る「主治医」、「副主治医」がいます。また一人の患者さんはいろんな病気を合併しています。それを診てくれる他の先生方が「協力医」です。皮膚科の先生、眼科、脳外科、麻酔科―痛みのコントロールですね、それから認知症が強かったら精神科の先生に薬を調整してもらうとか、あと整形外科、他にも耳鼻科とかですね、沢山いらっしゃいます。それから具合が悪くなって入院となる場合、「連携病院」ですね。浦添の場合8つの病院があります。それから訪問看護師、ヘルパー、理学療法士、管理栄養士、ケアマネージャーですね、それから歯科医師。つまりこういう、いろんな職種全体で見ると、結局、在宅―お家-でも病院と同じように診れるということになるわけです。ここがネットワークの非常に大事なところです。

さて、厚労省がいう今後の開業医のあり方ということで、これ実は平成19年に医療政策の指針として出したのですが、7つ位ございます。開業医の役割・機能の明確化、携帯電話などでの24時間対応、看取り、それから開業医のチーム化、総合医―総合的な診療能力の育成、医療機関と患者家族との調整、在宅医療を推進する医師の確保、看取りや看護・介護サービスなどとの連携・調整です。これをよくみると、結局、診療医の先生方は外来が中心でしたけど、これは「待ちの医療」ですね。国は「出ていく医療」を要求していると考えてもいいんじゃないかと思います。

在宅療養支援診療所というのが平成18年4月より新設されました。24時間連絡可能な医師、看護師の配置、24時間往診可能な態勢、24時間訪問看護の提供が可能な態勢の確保、緊急入院の受け入れ態勢の確保、他の保険医療、福祉サービスとの連携、こういった機能を兼ね備えているのが在宅療養支援診療所です。

在宅療養支援診療所の届出数ですが、現在日本全国で1万631件ですかね。沖縄県内は47件。浦添市内は9件です。具体的には、かじまやークリニック、まちなと内科クリニック、浦西医院、かりまた内科医院、名嘉村クリニック、浦添協同クリニック、浦添医院、長嶺内科医院、浦添中央医院です。あともっともっとこれから増えてくると思います。

浦添市の医療機関全体で言いますと、どうしても開業医だけではなく病院と連携していかないといけない。さっき話したように浦添市には8つの病院がございます。診療所が66ございます。それから訪問看護ステーションが3つですね。歯科医院数が31、もうちょっと増えているかもしれないのですが、とにかくこういったところとも連携していかないと在宅医療は難しいですし、浦添市の福祉介護施設とも直接的、あるいは間接的に連携していく必要があります。

浦添市在宅医療ネットワーク設立の経緯ですが、先ほどから話しているように療養病床の削減とか、社会的入院が困難な状況下で、患者、家族の在宅医療ニーズの増加があります。それからがんの末期とか胃瘻造設・気管切開等の医療的ケアの継続が必要な在宅患者が増加しています。一開業医で診ることは困難な状況が背景にあるということで、在宅医療ネットワークの設立というふうに向いました。事務局は浦添市医師会にございます。

在宅医療で出来る手技ですが、昔はこういうのは病院でしか出来ませんでした。高カロリーの点滴、胃瘻、胃管、麻薬の注射、あと人工呼吸器、気管切開の方もいらっしゃいます。腹膜透析、褥瘡の管理、抗がん剤の投与。こういう本当に医療的なケアが必要な人がどんどん増えていますので、在宅医療をどうしてもやってかないといけないという状況がありました。

今日、特に訴えたいのは、末期がん患者への地域医療連携です。診療所の在宅末期がん患者への訪問診療、それから麻酔専門医による麻薬の処方ですね。病院でも治療がどうしても難しいと、これ以上治療できないという場合、やっぱり本人の希望とか家族の希望があって、自宅へ戻ってきます。そういう人たちをネットワークで診ていかないと難しいと思います。うちの診療所でも3名くらいそういう方を診てきましたが、やっぱり一開業医ではもう厳しいなというのをすごく実感しました。こういった末期がん患者の看取りをネットワークでみて行くことが非常に大事でないかと思っております。

まとめですが、浦添在宅ネットワークは「診・診」、「病・診」連携の一つです。在宅医療に関心のある医師が中心になって会を運営していく。病院、訪問看護師、ケアマネージャー、歯科医師、栄養師とともに連携していく。今後は浦添市全体をカバーするネット化、浦添市で起床完結型医療、介護、福祉を実施、実践していく必要があるのではないでしょうか。先ほど会長から話がありましたように、沖縄県内で初めての試みであります。スタートして問題もいろいろ出てくるかもしれません。しかし、そういったことを一つ一つ乗り越え、解決しながら、浦添市民で往診とか訪問診療―を希望される人がいましたら、積極的に関わっていきたいと思っております。

どうもご静聴ありがとうございました。